歌手の皆様は高音発声や低音発声、大きな声や小さい声、長時間発声など声帯の機能を存分に使って音声を酷使するため、色々な声帯の病気を煩う事があります。
歌声には微少な声帯の病変も影響してくるためその取り扱いは慎重に行う必要があります。
病名として多いのは、「炎症」、「声帯結節」、「声帯ポリープ」、「声帯嚢胞」といったものがあります。いずれも発症初期には声をあまり出さず安静にすることが重要です。
炎症
「炎症」は声帯に発赤、腫脹を認めるものです。風邪をひいた後や声を酷使したことなどが原因となります。
基本的には声を出さずに安静にしていれば多くは1週間もあれば良くなります。
ただし、歌手の方では声の安静が保てない方も多く、治療に難渋する場合もあります。
どうしても休めない大きな公演などがある場合は強力なステロイドという抗炎症作用のある薬を内服あるいは点滴で加療する場合もあります。
ただ、この治療は副作用を生じる可能性もあり、メリットとデメリットを考慮し慎重に投与します。
のどに負担がかかるような発声をしていることが原因の場合は、音声リハビリあるいは専門家によるボイストレーニングを行っていただきながら再発を予防します。
声帯結節
「声帯結節」は、両側の声帯の前3分の1あたりにできる病変で、見た目は小さい“まめ”のようです。
謡人結節という名前もついているように歌手に多い疾患です。
喉をぎゅっと締め付けるような歌い方をする方に多いです。
前3分の1あたりが両側の声帯が閉じる時に最もあたる部分であるため、毎日毎日その部分があたることにより、マラソン選手の足にまめができるのと同じような機序で、声帯にまめのような結節ができます。
ひどい場合は手術で切除しますが、同じような発声をしていると再発するため、基本的には声の出し方を変えていく必要があります。
こちらも音声リハビリあるいは専門家によるボイストレーニングを行っていただく必要があります。
声帯ポリープ
「声帯ポリープ」は声帯粘膜に局所の出血や循環障害が生じ、器質化したものと考えられます。
発症初期であれば声の安静だけで治癒する場合もありますが、長期間経過したものでは声の安静や内服では不十分であり、ポリープが発声に影響しているようであれば手術による切除が必要になります。
しかし、手術にもリスクがあるため慎重に行われます。
人間の体は傷がつくとそれを治そうとする力が働き瘢痕が形成されます。
それ自体は体の通常の反応なので良いのですが、声帯の場合、粘膜が微少の範囲でも瘢痕が形成され硬くなると発声、特に歌声に影響してきます。
そのため手術を行うことでかえって声が悪くなる可能性もあります。
ですから、声帯ポリープがあっても発声にあまり影響していないようであれば、あえて手術は行わずに経過を見ることもあります。
手術を行う際には非常に慎重に行う必要があり、ポリープ部分だけを触って、正常部分はなるべく影響を与えないようにするという配慮が必要になります。
声帯嚢胞
「声帯嚢胞」は、その見た目は声帯ポリープに似ていますが、声帯に嚢胞といって袋のようなものができる病気です。
嚢胞には袋が完全な被膜で覆われた類表皮嚢胞と被膜がはっきりしない貯留嚢胞があります。
どちらも透明な液体が貯まった小さい風船の様なものを想像していただけたらと思います。
類表皮嚢胞は粘膜上皮成分の一部が粘膜下に迷入して生じ、貯留嚢胞は声帯を潤すための分泌腺の閉塞により起こるとされ、どちらも音声酷使による声帯の外傷や炎症によって起こります。
治療はポリープと同じで発声に影響しているのであれば手術が第一選択になります。
以上、歌手に多い音声障害の病気について述べました。
声帯はとても繊細な臓器で、歌を歌う際には1mm以下の非常に微少な声帯の病変であっても歌唱に影響を及ぼすことがあります。
少しでもおかしいと思うようであれば早めに耳鼻咽喉科を受診して声帯の状況を観察し必要であれば声の安静を保ち内服加療を行うことで長期化を防ぐ可能性があると考えます。
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